インタビュー

レポート|セイコーエプソン長野県本社、及び工場の視察

優秀な技術者と共に地元産業を興し成長させ、地域の発展に繋げる
地方創生の成功パターン

セイコーエプソン株式会社

日本アルプスを抱え、雄大な景観と共に多くの野生動物が生息する自然豊かな長野県。その中にある信州一大きな湖・諏訪湖の畔にて、前身となる「有限会社大和工業」が1942年5月18日に誕生しました。
2022年3月現在のエプソングループは、従業員約7万7千人。売上収益は1兆円を超える規模となっており、プリンターやプロジェクターを目にすることが多いと思いますが、ルーツは時計の製造・販売企業になります。
参考:https://80th.epson.com/journey/

インタビュー:
参加者:
エプソン販売株式会社
販売推進本部 DX推進部(グリーンモデル推進)子田様
DX推進部 グリーンモデル推進課長 柴崎様
AC MD課 企画課長 勝俣様
株式会社カルティブ 池田、小坪

2022年12月19日(月) セイコーエプソンの諏訪本社・豊科工場をご案内いただきました。
 
【行程】
AM:セイコーエプソン諏訪本社
<創業記念館>見学
<ものづくり歴史館>見学
PM:セイコーエプソン広丘事業所
 
【この記事の見どころ】
① セイコーエプソンが、本社及び工場を長野県に集中させている理由
② 様々な最新技術が生まれた背景や歴史
③ セイコーエプソンの歴史と日本のモノづくりが魅力

エピソード1今に繋がる地域活性化の思い
疎開してきたメンバーのために
火事だけは起こしてはいけない

セイコーエプソン諏訪本社 にて、創業記念館、ものづくり歴史館を見学させていただきました。

ものづくり歴史館は、2022年5月にオープンしたばかりのきれいな内装に創業当時からの歴史的な史料が飾られていました。

建屋は、1945年で終戦の年に作られた当時の管理棟の1階部分を改築して使われており、現在、文化財登録申請中とのことです。2階はまだ手が付けられておらず立ち入り禁止となっていましたが、見える範囲から推測すると昔ながらの作業風景の残る内装でした。

成り立ち
1942年 株式会社大和工業
1959年 株式会社諏訪精工舎
1985年 セイコーエプソン株式会社

長野県では生糸産業が盛んでしたが、アメリカとの戦争により事業転換し、時計の製造が始められたそうです。

創業者の山崎久夫は、従来、盛んだった生糸産業が衰退していく中、諏訪の地域に新たな産業を興し、盛り立て、地域の人々の生活に彩りを取り戻すことを切に願い行動を起こします。

「火事が起こると、疎開してきたメンバーが東京に戻ってしまうので、火事だけは起こしてはいけない」「夏も湿度が低く気象条件がスイスに類似している諏訪に適している工業は精密加工業であり、諏訪を時計工業の先進地にしたい」そういった思いをもとに、戦時下で疎開してきた東京の技術者を巻き込み、地域を盛り上げるための活動を続けたそうです。

その結果、現在では長野県内だけで1万人の方がエプソングループで働いています。

都会の優秀な技術者を呼び込み、共に地元産業を興し成長させ、地域の発展に繋げる活動は、まさに現代に必要とされている地方創生の典型的な成功パターンを感じることができました。

エピソード2日本の職人の技が光る
3名の職人の卓越した技術力が世界に認められるまで

創業当時、木材が手に入らなかったため、4つ分の時計の材料をもらい試作品を製作したところ、完成した4つ中2つが動いたということで、そこが時計メーカーのセイコーの始まりでした。
当時の技術では、1日に3分ほど時刻がズレていたそうです。
 
その後、開発が続き、「人工ルビーで滑りを良くしたり」「サイズを1周り大きくする」などして、1日30秒のズレまで抑えました。
 
その結果、1968年にスイスで行われた時計の国際コンクールでは、1-3位をスイスの会社で独占されたものの、4-23位は諏訪精工舎が独占し、企業賞1位を獲得しました。
スイスは水晶式腕時計でしたが、諏訪精工舎は機械式腕時計でランクインしたことも快挙だそうです。
 
機械式腕時計の制度は職人の技術に依存しており、職人と呼ばれる調整者が3名によって、丁寧に作りこまれていたそうです。
 
機械式時計の特徴の一つとして、油を挿せば30-50年持つという耐久力があり、精度もとても良い。
親から子へ、子から孫へと受け継ぐことができるという意味でも価値があります。

コンクールの後、水晶に電気を加えると振動させることでモーターを動かすクォーツ時計(水晶式電子時計)がセイコー舎でも作られました。
このとき、1日の誤差は0.2秒まで抑えられ、時報を刻む放送局用として納品されていました。

当時、新幹線が1964年に動き始め、車掌さんが乗り込むときに時刻合わせをしていた時代です。
時間が狂っていて新幹線同士で衝突することもあり、時刻の正確性は非常に重要でした。

精度と耐久性を追求したクォーツアストロンという機械式腕時計は、当時月給が2万円程度だった時代に、45万円/個という高値で取引されており、トヨタの高級車1台と同じ値段だったそうです。

東京オリンピックのエプソンのプリンタ
東京オリンピックのタイムスタンププリンタ
プリンティングタイマーEP-101

エピソード3エプソンの社名の起源「クレームゼロの大会で計時用の印字機導入」
EPSONの誕生

1964年。国際的スポーツ競技会の計時・記録用にセイコー競技用時計が採用され、「史上初クレームゼロの大会」になりました。
光電管式の測定になり、デジタルで0.0●(下二桁)秒まで測れ、さらにそのままプリンタに印字出力される仕組みを採用したため、人の目や動作の遅れによる誤審が完全になくなったのです。
 
エプソンの主力商品と言えば、プリンターを思い浮かべる方も多いと思いますが、スポーツ協議会の計時の仕組みを考案する中で生み出されたのが今に至るプリンター開発の原点であり、またエプソンの社名にも繋がる誕生秘話になります。
 
EPSONは、「EP」と「SON」に分かれ、以下がエプソンの名称の起源です。
① 電子印刷機 → エレクトロニック・プリンター(Electronic Printer) → EP
② SON 息子・子孫
 
つまり、スポーツ協議会後に生まれたEPシリーズの子孫という意味を社名に込めているそうです。
 

エピソード4時計から始まったセイコーエプソンの歴史
蓄積された技術を横展開し、次々に現代に続く商品を生み出し続けています

<ものづくり歴史館>に場所を移動し、セイコーエプソンの商品開発の歴史について見学させていただきました。
 
・インクジェットプリンター
1970年代に開発し始めて、良いものができたのが1990年代
 
・デジタル表示
クォーツ腕時計で採用されたデジタル表示を起源として、液晶が得意になった。
テレビウォッチ、カラーディスプレイ、プロジェクターへと商品展開が進んだ
 
・プロジェクター
開発当時は、70万画素程度となっており、大きく映写すると1マスが4 mm□程度と読めるものではなかったが、10年掛けて進化しプレゼンにも使えるようになり黒字化された。
数年では諦めない技術の錬磨が商品の裏に隠れている。
 
・ロカティオ
GPS機能も搭載されたマルチタスク型の時計
そのまま進化を続けていたら、スマホのファーストモデルになっていた可能性を感じた。
 
・そのほか
レンズ、CD、シェーバー、小型ドローン(当時の呼び名は異なった)、スマートグラス、生産ライン用多軸ロボット
※ 小型ドローンなどは、時代の先を行きすぎたため、価値が認知されないまま廃版となった。
 
数十の拠点を持つセイコーエプソンの工場などの拠点は、実は歴代の社長の出身地に設立されている。
生まれ故郷の産業・雇用を作り、守り、育てる諏訪精工舎の理念が今も受け継がれている。
創業者である山崎久夫の家業であった「山崎屋時計店」は、今も諏訪の地で小売り販売を手掛けている。
https://kkyamazaki.co.jp/

エピソード5現代の最新設備1 「PaperLab」
使用済みの紙から水を使わずに新たな紙を生みだす究極のエコ紙利用

塩尻工場に場所を移動し、ショールームを見学させていただきました。

ドライファイバーテクノロジーを駆使し、水を使わずに繊維まで戻し、また紙を作りだします。

① CO2は出しません。
② 新たな木材を一切使用しません。
③ 使う水はほんの少量です。湿度を保つためのバケツ一杯程度
→ 水も木も炭素も使いません。紙を機密処理したうえで、再生します。

例えば、オフィスビルに一台を置いて、テナント企業にはシュレッダーまでしてもらい、回収した紙ゴミをビル内でそのまま紙に再生、再利用できます。

https://www.epson.jp/products/paperlab/

エピソード6現代の最新設備2 「Monna Lisa」
インクジェットによる布へのデジタル捺染で環境負荷の低い生産工程の実現と作業負担の低減

ロール状に巻かれた長尺の布に対して、インクジェット方式で捺染することで、伝統的な染料染めと比較して、圧倒的な水量の削減に繋がり、高速生産・小ロット生産が可能になりました。
必要なときに必要な分の捺染でき、環境負荷も小さいため、新デザインの服飾品の試作などに効果的です。

1時間に500mの布に捺染できる生産能力と合わせて、インク、布、電力に無駄のない生産です。
捺染対象の布に制約はなく、インクも多種より選択できます。

デザインはPCで設計したデータを設備に送るだけで、版も不要です。

https://www.epson.jp/products/textile/

エピソード7現代の最新設備3 工業用ラベルプリンターによるデジタルクリーンラボ
インクジェットによる多量生産対応により、印刷工場の3Kイメージの払しょくに挑戦!

商品ラベルを生産する工場は、塗料が至る所に付着しており、3K(きつい・汚い・危険)労働のイメージが強く持たれています。それは、塗料の管理や頻繁な印刷版の取り換え、清掃などに起因するところが大きいと考えられています。

セイコーエプソンでは、印刷の現場を、職場環境から変える必要があると考え、3Kのイメージを与えてしまう要因を分析し、徹底的にクリーンな職場環境を構築できるように、開発を進めています。

汚いイメージを払拭するため、部屋の内装は白を基調とし、加工用の治工具・設備点検・塗料等を扱う際にも設備や衣服が汚れない設計を行っています。

スピード優先タイプや、画質優先タイプなどのラインナップを揃えており、様々な現場のニーズに応えられる仕様を揃えています。

ただし、現在でも300mを超える大量ロット生産に関しては、印刷版を利用したアナログ印刷の方が適切とのことでした。

https://www.epson.jp/products/label/

エピソード8現代の最新ショールーム
どんなものにでも、どんなデザインでも再現できる現代の最先端印刷ショールーム

椅子や壁紙、床シートなど、部屋中すべてがエプソンのデジタル印刷機で印刷されたものが展示されています。
4色の色調の透明シートを重ねることで1枚ずつでは見えてこなかったスキーヤーの後ろ姿が映し出される科学的な展示品もありました。
紙以外の布、木材、畳、陶器などへの印刷物も実機とともに展示されています。
凹凸のくっきりと分かる油絵のレプリカもインクジェット印刷により、3Dプリントされた印刷物になります。

印刷方式は昇華転写印刷を含め多種多様なものがありますが、Tシャツやマスク等への1枚単位での印刷も可能となっており、イベントなどとのコラボが今後期待されています。
アメリカでは選挙戦で大活躍しているそうです。

セイコーエプソンの創業から事業展開、現代の商品ラインナップの質と量に触れられたとても濃い見学ツアーでした。その創業秘話からは、現代の地方創生に通ずる創業者の地域や社会に向けられた熱い思いを感じることができ、私自身も胸が熱くなる思いがしました。

日本のよき伝統を作り、守ってきた、ジャパンブランドを背負う世界的な一流メーカーとして、今後もその地位とブランド、存在感を世界の中で、そして地域の中で守っていってほしいと心から願います。

カルティブ社としては、これからもエプソングループの地域貢献事業に力添えしていきたいと思いを新たにしました。

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