インタビュー

株式会社MKファームこぶし
堰根農場長

花巻のワインブランドを立ち上げる。
耕作放棄地を日本ワインの銘醸地にするための果てしない挑戦。

株式会社MKファームこぶし

産業機械のメーカーである株式会社クボタが、日本の農業が抱える課題に対し、実証モデル圃場として始めた農場「クボタファーム」の一つで、株式会社みちのくクボタが親会社として経営する岩手県花巻市にあるファーム。「いわてワインヒルズ推進プロジェクト」に協力し、ぶどう栽培で地域農業の活性化に貢献し、未来のために持続可能な農業経営モデルを研究している。

インタビュー:
株式会社MKファームこぶし
堰根農場長
株式会社カルティブ 竹村

参考:Vespinae(ベスピナエ)ECサイト

少しずつだけど、着実に進んでいる日本ワイン作りへの挑戦。
ようやく、自分達が植えたブドウが形になった。

− 堰根さんの自己紹介をお願いします。

堰根
私は岩手県の花巻市に生まれ育ちました。みちのくクボタに入社して5年目です。
大迫では、農家の担い手不足・高齢化により、ブドウ生産量は減少の一途を辿っています。そこでクボタが2017年にICT技術や機械を活用したファーム事業に参入したんです。
その頃私はまだ前職のホテルに勤めながら、大迫にブドウ農業の勉強をしに来てきていました。そのタイミングでみちのくクボタと知り合って転職に至り、現在はMKファームこぶしの農場長をさせていただいています。

− ブドウ農業の勉強はどういう機会に始めたんですか?

堰根
ホテルのキャリアアップって飲食なら大体ソムリエの資格を取るんです。なんとなく、そのルートが当たり前すぎるなと感じていました。田舎で暮らしている利点があるキャリア形成を考えたら、ソムリエよりブドウ農業ではないかと思いつき、勉強を始めました。
そして、近くでいいワインができてるんです。旅行でくる首都圏のお客様の「岩手にこんな美味しいワインあるんだ」という声を生で聞いていたので、生産者側に挑戦しました。いつの間にか本業になってしまいましたね。

− まだその最初の面白さを維持できてますか。

堰根
面白いですが、同時につらさも分かってきました。農業は天候や自然に影響されるのでその厳しさはあります。まだブドウ栽培のフェーズで、ワイン作りはまだ着手できていないんです。けど、これは個人で挑むのは厳しかったかなと思う。企業だからこそ色々挑戦ができる事業なので、頑張っていきたいです。

− これまでの事業の経緯を教えてください

堰根
2017年に畑を借りて、ブドウ栽培を始めました。採れたブドウは全て委託醸造でワインにしてますので、これが1発目のヴィンテージ2017年。そこからずっと5年間続けてます。とはいえ、生産本数が2〜300本とかなので社内販売で終了です。栽培は毎年トライアンドエラーで、今年はこういう風に変えてみようと調整をしています。2021年のビンテージでやっと1000本を越えました。そのワインは自分達が苗木を植えたブドウからできたものです。それ以前は木が植えてある畑を借りたので、そういう意味で、2021年はちょっと嬉しいものがありましたね。それがVespinaeの始まりです。

− カルティブと知り合った経緯を教えてください。

竹村
はじめは親友を通して、日本地域色協会のいいイロの活動として「葡萄の色ができないですか」という紹介をいただいたんです。それで最初にお会いしたのが、2019年の年末でしたね。
その時聞いたのはリースリングリオンの色で、そこの適作地になるんじゃないかっていう話でした。岩手の色に緑がなかったこともあり、白ワインの緑と赤ワインの赤ブドウいいんじゃないかなって思って。
それから1年ぐらい経ち、作ったワインが世に出るというタイミングで、それをプロモーションしていくブランドサイトやECとか販売も含めてご相談をいただいたのが2020年。
まずはブランドの育成というところでご一緒しています。

− 何から取り組み始めたんですか。

竹村
一番最初は要件整理です。ブランドサイトとEC展開をやりたいということだったので、そこをヒアリングしながらどういう仕様が必要なのかを精査しました。
ただ、ワインの製造なので、複数年度の生産本数見込みなどの全体像を一緒に見させてもらいながら、事業全体の把握をさせていただきました。
実際に作っているワインの良さや厳しさを味わいながら勉強させてもらっています。自分達も何か育てるところの一端を担っている気持ちです。
堰根さんを応援したい気持ちからスタートしているので、一緒に走らせてもらっている感じがしますね。

一緒に作りこんだロゴには、Vespinaeの魂が入った。

− ロゴの制作について聞かせてください。

竹村
ロゴは2021年春先、ラベルは年度末くらいにリニューアルしました。
元々Vespinaeっていうネーミングは決まっていて、蜂のマークもあったんですが、ラベルを含めてもう一度デザインを起こしたいという相談をいただきました。
堰根
ECとかコーポレートサイトを作るタイミングに合わせて、一新したいと思いお願いしました。新しいラベルはあの蜂の周りにある花模様がいいですよね。花巻が意識されているなと思います。汎用性を持たせて、トマトとかの生産でも使えないかなと思ってしまいます。
竹村
ありがとうございます。いろいろチャレンジした結果、蜂の周りに花の柄をあしらいました。花巻という地名はもともと「水辺に花が渦巻いている」っていうところに由来するらしいので、偶然にもそういう雰囲気になりました。

− どういう制作工程だったんですか?

竹村
デザインを作って、A案B案を選んでいただいて、フィードバックを貰ってデザイン調整を繰り返しました。
堰根
私がまた、結構ああしてくれこうしてくれがうるさくて。
竹村
一緒にその場で手を動かして、色や位置を細かく調整する時間が多かったですね。
堰根
相当やりましたね。本当に作り込んだ。
竹村
デザインの仕事において、デザイナーの裁量に任せてアウトプットされたものを使うケースってよくあると思うんですが、その最後のフィニッシュのところにかなり関わってもらったのはすごくうれしかった。一緒に作った実感が大きいです。
堰根
前作のVespinaeラベルは、デザイナーに任せっきりにして「これでいきますか」って決定したんだけど、今回は自分も結構口を出してしまった結果魂の入ったものになったかと思います。
竹村
ですが、Vespinaeとしてのスピリッツやコンセプトは旧ロゴからちゃんと継承しましたし、こうやってストーリーになっていくんだと思います。

− Vespinaeという名前の由来を教えてください。

堰根
Vespinaeは「スズメバチ」の学名なんですけど、ちょうどブドウが収穫を迎える頃、スズメバチがブドウをムシャムシャと食べていたんです。スズメバチはもともとそこに生息しているのでこれを駆除しちゃいけないと思って、我々は「守り神」みたいに扱うことにしました。
不作の年はツーンとする匂いに釣られてやってくるんですよね。「お前達ちゃん作れよ」って叱りにきてくれるのかな。いい年はすぐ満足して帰っていくんです。
そうなると「ありがとうございます!良かったです!頑張ります!」みたいな気持ちになります。そんな存在なのでシンボルとして使わせてもらいました。

− 今後のMKファームと日本地域色協会の連携を教えてください。

竹村
まずはECサイトを開設します。※
日本地域色協会はもともと地域資源の発信やプロモーションの方が得意領域なので、一緒に地域の資源を応援していく流れになると思います。
そうなるとあとはカルティブの得意領域になるから、事業の部分をサポートもできればいいと思っています。やっぱり「作って終わり」じゃないですから。
Vespinae Online Shop(オンラインショップ) https://vespinae.stores.jp/
堰根
我々は既にあるものを販売するのはできるんですけど、0から1を生み出すってことには明るくないので本当に助かってます。ありがたいです。
もともとは農家の耕作放棄地を改善して担い手を確保していくとか、農業を続けるために負担が少なくて済むような生産とか、そういう取り組みから始まっていすが。
ブドウという文脈ではまさに日本ワインの銘醸地を目指したいですね。
竹村
そうですね!やっぱりやるからには花巻を日本ワインの銘醸地に。

− 花巻はワインの産地としてはどう認識されているんですか?

堰根
首都圏からしたら「花巻にワインがあるの?」とか、まだまだ知られてないのが現状です。日本のワイナリー数は山梨、長野、北海道、山形に次いで岩手が来るんですが、岩手とそれ以外の差が本当に大きい。ブドウの栽培面積とか産業規模が違いますね。
もちろん、岩手県民からすると、花巻がワインの産地っていう認識はあるんですが、花巻より大迫の方が有名ですね。
竹村
実際、花巻は銘醸地になるだけのポテンシャルはありますか?
堰根
あると思います。去年の出来はすごく良かったし。
あと、やる気ある人材も増えなきゃいけない。「このブドウを育てたい」っていう人がもっと必要です。そうすれば、もっと多様性のあるワイン産業が生まれます。
銘醸地って、1ブランドが一人勝ちしていては駄目なんです。10とか20とかワイナリーがあるからこそワイン産地になって、その中で多様性が生まれる。いろんな表情のワインがあると、観光に来て巡れるようになります。なので新しくブドウ農業を始める人が増えてほしいとは思います。そのためには「やっぱりいいものができるんだぞ。みんなやろうよ」って言えるだけのワインを作る必要がありますね。
そして「ブドウはこうすれば作れるよ」とか、効率化や負荷軽減のノウハウ、収穫量の安定化など、そういう環境を作っていくことが大事だと言えますね。
まずはこのエリアのブランドとしてVespinaeが先行事例を作ることで、後からついてくる人が増えたらと思います。その時は、その新しい人にも手助けをしたい。
竹村
やっぱり耕作放棄地を畑にするのは大変なんですか?
堰根
大変です。この辺りは、棚田の耕作放棄地がほとんどです。それをブドウ用に整地していきます。ブドウは棚田のままだと効率的にあまり良くないので、そこを平すのに費用も労力も掛かりました。

ブドウ作りへの強い思いを的確に伝えていく。
色々なトライを繰り返して、事業をアップデートしていく。

− カルティブへの印象を教えてください。

堰根
本当に知らないことを教えてくれますし、頼りっぱなしです。本当に頼りっぱなしです。
ロゴとかコーポレートサイトを作るだけじゃなくて、その運用の方法や仕事のやり方とかも教えていただいています。チャットツールを導入したらほんと便利になりましたね。色々勉強させていただいています。
竹村
みんなで仕事をアップデートしていく感じですね。

− MKファームこぶしへの印象を教えてください。

竹村
関わった当初からブドウ作りへの強い思いを感じています。農機具の販売から農業へのチャレンジっていう。
自分達の取り組みに対して強い思いをお持ちであるのは本当に大事なことだと感じています。
その中で、足りない部分を周りからサポートして、仕事をアップデートしていくことが私たちの楽しさや嬉しさです。
農業は、既存の方法を変えるのが難しいことが多いと思うのですが、そうではなく、チャレンジ気質が旺盛な点も皆さんと一緒に仕事をしていて楽しめているポイントです。

− 今後の意気込みと展望をお願いします。

堰根
やっぱりワインを作りたいんです。だからブドウができたら、ワイナリーを作りたい。
ベースとなる農業をしっかりすることで、しっかりしたワイナリーをつくる。これが一番です。
着実に堅実にやっていきたいなと思います。
カルティブさんにお願いしたいのはやっぱりマーケティングですね。WEBやSNSなど駆使して販売にご協力をお願いしたいです。販路の部分でも色々なトライをして、ファンを増やしていきたいです。
竹村
こちらとしても、非常にいいプレーヤーとご一緒できているなと思っています。
カルティブやカルティブの周辺には多様な方々がいますので、花巻のワイン作りを応援する連携を構築できたら楽しそうですね。
製品の価値を的確に伝えていくことで事業が成長していくように思います。そこを一緒に考えていきたいですね。

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