インタビュー

岩手県宮古市役所 企画課
畠山広報係長・中居地域創生交流推進室長

宮古市の地域色をつくる。
創出の過程を経て、色を成長させるという取り組み

岩手県宮古市役所 企画課

市の総合計画の策定や推進、市の広報媒体等での情報発信、地域課題の調査研究等を行う。また、姉妹都市との地域間交流などに関する仕事も行っている。 国指定名勝「浄土ヶ浜」の新しい遊覧船「宮古うみねこ丸」の船体のカラーを日本地域色協会と開発した。この船体カラーにも使われている地域色「浄土ヶ浜エターナルグリーン」を積極的に街のブランディングに活用を広げている。

インタビュー:
宮古市役所 企画課
畠山広報係長
中居地域創生交流推進室長
日本地域色協会 / 株式会社カルティブ 竹村

震災から10年以上経ち、
改めて宮古の元気を発信していく。

− 企画課広報係について教えてください。

畠山
企画課は宮古市の総合計画の策定、国内外の都市との交流、地域情報化などに関する仕事をしています。その中で、広報係は広報業務「広報みやこ」の発行、市のホームページや公式SNSの運営、地上デジタル放送の視聴環境維持、コミュニティFM放送に関する業務を担当しています。

− 企画課地域創生交流推進室について教えてください。

中居
人口減少による宮古市の衰退を止め、街を持続可能にしていくための取り組みを進めていくための部署です。元々は「地域創生推進室」として始まった部署ですが、令和3年度から「交流」の文字が加わりました。
私は平成30年度に配属になり、現在5年目になります。

− 地域色協会との関わりを教えてください。

竹村
近隣のプロジェクトとお話しする中で昨年の6月にご紹介していただきました。
お会いした背景ですが、2021年3月に浄土ヶ浜の遊覧船がなくなってしまったんです。
震災被害も乗り越えた遊覧船でしたが、コロナの影響、船体の老朽化などの影響を受け、民間の事業者が運行を終了してしまいました。しかし、市民の皆様から遊覧船の再開を望む声が大きくなり、街として公設民営という形で遊覧船の復活を考えているということでした。
そこで「地域の色を市民の皆様と作り、市民の船である新しい遊覧船にその色を乗せて応援していこう」というご提案をさせていただきました。「震災から10年以上が経ち、改めて宮古の元気を発信していく」という方針で2021年8月に取り組みがスタートしました。

−「地域色を作る」という日本地域色協会の活動は全国でもあまり前例がありませんが、すぐに共感できましたか?

畠山
「地域色を作り、その色を軸に地域を活性化させる」ということは理解できました。
内部で難色を示すような反応は...特になかったです。全体的に「良さそうな気がする」という反応でした。スタートが「遊覧船の船体カラーを決めて、その色を活用して応援していく」というところからだったので、その点に批判の余地はありませんでした。
竹村
だんだんプロジェクトの規模が大きくなってきて、船体カラーから地場産品などにも展開でき「浄土ヶ浜の景観保全や遊覧船の運行支援をしましょう」という発信や応援にもつながりました。元々が、”船体カラーとしての活用”という、実用性に即したプロジェクトだったので、それに付随して提案したストーリーや活用法が形になっていきました。
万年筆のご当地インクやその他グッズなどの活用法イメージは提案していたので、それほど不明瞭ではなかったと思いますが、それでも市長をはじめ市役所の皆さんにすぐご決断いただけたのはやはりうれしかったです。
畠山
今となっては、ほとんどの自治体は前例がないものに対して抵抗を覚えるものですが、その反面「他の地域がまだやっていない」ということは新鮮な取り組みだと思えます。


「浄土ヶ浜エターナルグリーン」を船体カラーに使用した遊覧船「宮古うみねこ丸」

− 取り組みをスタートしてからの流れを教えてください。

畠山
まずは一般応募と現地でのヒアリングと情報収集を行いました。
浄土ヶ浜周辺の関連施設に竹村さんと赴き、浄土ヶ浜の魅力やイメージなどをインタビューしました。
竹村
はい。浄土ヶ浜にまつわる思いやストーリーを収集しました。
「浄土ヶ浜の好きな色」を一般で募集し、ネットでは116件の応募を、プラス10数社の浄土ヶ浜周辺の事業者の方にもストーリーと合わせて色の候補をいただきました。
集まった応募を選定し、松の色、海の色、白い岩肌、本州最東端の日の出の色...など地域色協会で5系統13色に分類し、その13色を市民を中心とする選考委員会で3色まで厳選し、最後は3色から1色を選ぶ市民投票を行っていただきました。
そして、2021年11月24日に「浄土ヶ浜エターナルグリーン」が宮古の地域色として発表になり、市長と市役所の皆さんにお披露目をしていただきました。


地域色「浄土ヶ浜 エターナルグリーン」のお披露目風景

中居
私個人としては「やっぱりこれだよね」という予想した通りの色に決まりました。
畠山
私は、実は青系統のものに投票したんですよ。市内のどこに住んでいるかによってもイメージは変わりますし、一色を選ぶのは難しい作業です。ただ、結果として汎用性のある使いやすいいい色に落ち着きました。
竹村
選考の中で「使いやすさ」という視点は結構考えました。色々な意見が飛び交って選考委員会の議論は結構盛り上がりましたよ。
色が決まってからは...作戦会議でした。
畠山
遊覧船の就航に付随してどのように展開していこうかという、活用と普及についての作戦会議です。就航開始が2022年7月17日と決まってますから、そこに向けてどのように市民の目につくようにしていくか?という課題がありました。
いかに市民を巻き込んでプロモーションしていくか?という観点に即して色々なものができました。
竹村
遊覧船の造船や就航は観光課の皆さんを中心に進行しており、私たちは地域色を通してその支援や促進という位置づけです。
ふるさと納税の返礼品で万年筆インクを発表するなどもその一環です。
市の広報にも使っていただきました。次は、フラッグを作って商店街に掲示していただきました。


中央通り商店街(みずき会)で作成された街路灯フラッグ

畠山
あと、年度を跨いでからは市役所の職員の名刺にも使っていますし。県内外問わず、展開する市役所の資料や感謝状にも使っています。
2022年3月末に「浄土ヶ浜 エターナルグリーン」のネクタイとスカーフがリリースされたので、特にセレモニーなどに出席する場合など、市長をはじめ、職員で着用しています。


浄土ヶ浜 エターナルグリーンを使用した宮古市公式ネクタイ

中居
市庁舎内のイメージパネルもこの色になりました。来客の方が記念撮影する時などにこの色が背景に入ります。
竹村
市長も記念撮影があるときはこのネクタイを着用するなど、積極的にこの色のアピールに取り組んでいただいています。

地域の色を決めることは、市民のアイデンティティに踏み込む。
緊張感を伴う「地域色」の開発

− 市民の皆様の反応はいかがでしたか?

中居
今年から市内で配布される広報物やイベントチラシが、エターナルグリーンになり始めたんです。こちらが要請していないのに自然にこの色の広告が増えてきています。これは非常にうれしいことです。
竹村
地域の企業様が、この色が選定されたときに「おめでとう」というお祝いを込めてこの色のライトアップをしてくださいました。そんな風に、地域で段階的に目に触れる機会が増えてきていますね。最近は宮古の街中でこの色が目に入るとうれしくなります。

− これまでの取り組みの中で一番苦労したのはどの点ですか?

竹村
最初の13色の候補色を選考して、生データを作る作業と、色が決定したあと、ネーミングとコンセプトに紐づくストーリーを紡いでいく作業。
「苦労した」というより、楽しくもあるけど責任も重大な「気持ちの入る」作業でした。私自身が宮古市出身の人間ではないので、その緊張感もありましたね。
地域の色を作り上げることは、地域に住んでいる方のアイデンティティに踏み込むことになるので緊張感も伴いました。また今後は、若い人たちへの浸透という課題もあります。宮古にこのエターナルグリーンがあるという意識を育てていきたいです。色なので幼い頃から楽しんで親しめる啓蒙活動ができるといいですね。
そしてもう1点、宮古市以外の方がイメージする「浄土ヶ浜」とのイメージとのマッチングもいしきしました。例えば、Googleで「浄土ヶ浜」というキーワードで画像検索した時に表示される写真がどういう色彩で多いかなど、市の中からの視点と、市の外からの視点という双方の折り合いをどうつけるか、という点をすごく考えました。
個人的には青系統の色で落ち着くと予想していましたが、割と多くの人が「浄土ヶ浜は内海だから緑なんだよ」とおっしゃっていて、確かに緑寄りの色彩である発見が面白かったです。
選考の過程においては、オンライン投票も併用したことでどの街にお住いの方々が宮古市に関心を持っているか、という点も垣間見えたのも面白かったです。
畠山
私が難儀したのは竹村さんと浄土ヶ浜周辺の事業者を訪問することですね。やはり最初は地域色を決めるという活動に対して「なんだそれ」という反応だったんです。
その時は少し歯痒さを覚えましたが、色が浸透していく中で市民の皆さんの捉え方も変わってきているように感じています。私は広報担当として、これから、まだ浸透しきっていないところまでこの色を周知・PRを積極的に進め、色を浸透させていきたいです。
竹村
二人で一緒にテレビに出て全国にアピールしてしまったので、とことん頑張り切るしかないですね!

色自体は単色。しかし色々なストーリーの重なりで生まれた
「浄土ヶ浜エターナルグリーン」

−日本地域色協会についての所感をお願いします。

中居
「こちらが色々情報の提供や仕事を依頼して、それに対応してもらう」というような一方的な関係ではなく、自分ごととして楽しみながら取り組んでもらえる点にありがたさを感じています。
畠山
私たちとは違う視点で宮古を見ていただいて、気づかなかった部分を色々発見してくださいました。やるべき作業が増えているのに楽しく事業を進められて、ここまでやってこれました。それは竹村さんの、気質や行動力に引っ張られています。

− 今後の活動の展開について教えてください。

中居
これまでは、シティプロモーションとして街をどのように見せていくかという課題がありました。それが、今回の「浄土ヶ浜エターナルグリーン」の開発によって軸ができ、やりやすくなりました。
これからは市のイベント、観光サイドの広報などにも色を積極的に活用していくことができます。都内で開催するイベントやツアーの広報にも色を使い始めています。
市の内部から、市外への認知を獲得しにいこうとしています。
畠山
宮古は浄土ヶ浜以外にも森、川、海があり、それぞれの色を決めるという構想もあったんです。ただこのエターナルグリーンの背景には、ゴミ拾いや周辺の山林の植樹といった活動によってこの色の元である海が保全されているという繋がりのストーリーがあります。
だから「浄土ヶ浜の海の色」というだけではなく「宮古全域の住民の様々な活動の色」なんです。そんなコンセプトの部分もPRして広げていきたいです。
竹村
最初はエターナルグリーンにそこまで深い繋がりのストーリーはありませんでしたが、PR活動を通して森川海それぞれのストーリーが紐づいてきました。元々は、色が増えてパレットとして複数色での展開もありだったんです。ただ、どうしてもそれだとブランドイメージとしては散漫になる。いずれにせよ、まずは宮古市のストーリーから1色を選んで軸を作るというところから始めないといけません。
今回の「浄土ヶ浜エターナルグリーン」は、色自体は単色ですが、色々なストーリーを積み重ねた結果決まった色です。
その絞り込んでいく過程は非常にクリエイティブでした。
その1色でのカラーブランディングが成立した後に、他の地域資源の色とのコンビネーションも生まれ始めるのかもしれません。
中居
地域色を持った他の街と並べた時に面白さを発揮することもありえますね。こちらのエターナルグリーンとの重なりが「交流の色」としての象徴になったりしたら楽しいですね。
竹村
宮古市のイメージをこの色で認識してもらって、実際現地に行ったらその色が使われた街の雰囲気があるというのも大事です。宮古市はそんな地域に近づいていっています。そんな風に色の活用が浸透していくなかで、この色に携わっている人の顔も地域の魅力としてどんどん発信されるようになってほしいです。そしてこの色が「浄土ヶ浜」だったり「宮古の応援」という意味にもっと結びついていくことがプロモーションなんです。この色がもっとコンセプトになっていって、地域のブランドとして育っていくことが楽しみです。
宮古市しおかぜフェスタ「宮古うみねこ丸」就航式にて

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