インタビュー

奈良県庁 総務部知事公室市町村振興課
染川課長補佐・石田様・鹿目様

行政組織に「民間の視点」を補完する
先進的事例であるが故のトライアンドエラーと緊張感

奈良県庁総務部知事公室市町村振興課

地方分権改革の成果を踏まえ、奈良県全体として地域の活力の維持・向上や持続可能で効率的な行政運営を実現するため、奈良県と各市町村が連携・協働して地域課題の解決に当たるしくみである、「奈良モデル」を推進するセクション。

インタビュー:
奈良県庁総務部知事公室市町村振興課
染川課長補佐
石田様
鹿目様
カルティブ 小坪

手探りで始まったプロジェクトが「先進的事例」に
前例のなさゆえの試行錯誤

− 皆さんの自己紹介をお願いします。

染川
奈良県市町村振興課課長補佐の染川です。
企業版ふるさと納税を含め、市町村の地方創生を担当しています。基本的に我々のような行政職は異動が多く、様々な分野の職場を経験しますが、このような寄附に関する業務に携わるのは、はじめてになります。
石田
石田です。昨年度まで市町村振興課に在籍し、地方創生関係の交付金の事務や立ち上げた協議会の運営をしていました。
現在は異動してまちづくり関係の部署におります。
鹿目
4月に異動して来ました鹿目です。現在は、県内市町村の企業版ふるさと納税制度の推進を担当しております。
小坪
鹿目さんは参画したばかりの6月に、いきなり講演で登壇していただいたんですよ。無茶な依頼なのにしっかり務めてくれて感動しました。

− カルティブと関わるきっかけを教えてください。

石田
令和2年度の税制改正で企業版ふるさと納税の大幅な制度の見直しがありました。その少し前に市町村の担当者を集めて田原本町で企業版ふるさと納税に関する勉強会を開催しました。その会に小坪さんが参加してくださいました。
小坪
「企業版ふるさと納税について説明する機会がありそう」ということでふるサポ中嶋さんの講演のお手伝いで同行したんです。
その時に石田さんの前任の方がいらっしゃいました。その後に協議会の設立という動きが奈良県であり、勉強会開催から約一年後に連絡が来ました。それからしばらくしてから5月に正式にアドバイザーをご依頼いただきました。あれ?なんでこちらにご連絡いただけたんですか?
石田
協議会の構想の下地を作った前任の担当が、小坪さんの企業版ふるさと納税のセミナーに参加していたので、小坪さんのことは以前から存じ上げておりました。
小坪
なるほど。当時私が開催していた「47都道府県推進リーダー勉強会」というセミナーですね。2021年3月の回に参加していただきましたね。
石田
協議会の形はある程度できたものの「県と市町村が一体となって取り組みを進めている」先進的な事例が他の都道府県にもなかったのです。
「構想はできたけど手探り」という状態でした。協議会を立ち上げるための市町村の同意はいただいたものの中身がまだできていないという段階でした。
どこから着手しようか?という感じでしたね。
小坪
ほんと「手探り」でしたね。僕も最初何をどう進めればいいのか?すらわからなかった。大変面白かったです。

− 他の都道府県でも動き出していない取り組みを、奈良県が先んじて始めたのはなぜですか?

染川
「地域再生計画」というものがありまして、それを作ったら企業版ふるさと納税を受け入れることができるのですけれど、県内の市町村においてはその計画の作成が進んでいませんでした。そこで、県から市町村に計画の策定を呼びかけました。
小坪
資料をみると、2020年8月時点で奈良県の計画の策定進捗が38%で、11月に98%になってますね!
石田
その期間、各市町村に「計画の立案をしましょう」と呼びかけていました。メールと電話でひたすら呼びかけ、時には役場まで伺って、一緒に計画作成に取り組んでいました。
染川
計画の策定をお願いした以上、県としても、市町村が企業版ふるさと納税による寄附を受けることができるように支援していく必要があるということで、県と市町村で協議会を立ち上げ、寄附獲得に向けた取組を行うこととなりました。

− 「奈良モデル」について聞かせてください。

染川
奈良県では「平成の大合併」において市町村合併があまり進まず、小規模の市町村が多く残っています。
小規模な市町村では行政のリソース不足が起こる場合もあり、「広域連携」といって、近隣の自治体で行政サービスのリソースを共有したり、「垂直支援」といって県が支援したりというサポートの必要性が生まれます。
そういった広域連携や垂直支援を積極的に推進し、市町村同士または奈良県と市町村の連携・協働を行う仕組みが、「奈良モデル」と呼ばれています。
都道府県毎に、県と市町村の距離は近かったり遠かったりそれぞれ違うのですが、奈良県では市町村と積極的に連携・協働するという考え方を県政の方針としております。。
協議会の立ち上げの背景には、そのような県政の方針もあると思います。
小坪
こんな風に県が積極的に市町村を支援しているケースは珍しくて、非常に先進的なんです。なので、僕はいつも奈良県でトライした施策をパッケージにし、カスタマイズ、ブラッシュアップさせて他の県庁さんにも持っていっているんです。
他の県庁にも受け入れられ始めているんですけど、圧倒的に戦略的に、コンテンツミックスとかマーケティングミックス的に進めているのが奈良県なんです。 
企業版ふるさと納税連絡協議会の目標はつまり「市町村が寄附を集める」という点に終始します。
もちろんそこにKPIはあるんですけど、そもそも「施策としてどんなことができるんだろう」から始まっているので、県から市町村に「こういうノウハウを提供したり、こういう場を提供したら、こういうふうに企業を呼び込めて寄附が集まるんじゃないか」というブレストが昨年の動きでした。
県庁視点で市町村に対してできることを僕と石田さんでブレストして出して、いいと思った施策を思いついた順にトライアンドエラーしていました。
今年は、新担当の鹿目さんと順番と時期を計画して進めていきます笑
鹿目
今年はもうベースがありますし、それをいかにブラッシュアップして合理的にやれるかというふうに考えております。
小坪
去年実行した施策はどれも満遍なく上々という手応えです。ただ、問題は順番にありました。最初にプラットフォームを作っておけば、それを軸にいい発信ができていたのに、その構築を後回しにしちゃったのは反省点です。
パンフレット作成を一番最初にやって、駆け足で動画作成やマッチングイベントの開催を行なったんです。
弊社の河田と大久保と徳永に、2021年の10月末に作ってもらいました。
小坪
自治体が企業にプロジェクトを説明する「マッチング会」が企業版ふるさと納税にはあります。内閣府が主催していたりします。
そのマッチング会では、各自治体がプロジェクトの説明をするんですけど、1自治体が5分登壇し、全自治体のお話を聞くと1時間半くらいの時間がかかるんです。
また、5分で必要な情報を十分に届けられるかという課題もあり、膨大な情報量を早口で伝えて、結局何を言っているのかわからないというケースもあります。
そんなイベントで寄付を獲得するのが難しいという課題があったので、マッチング会は「熱意を3分で伝え、興味を喚起させる」ようにしたんです。
「プロジェクトについて詳しく知りたい方は動画を参照してください」というようにして、説明よりも質疑応答などのコミュニケーションを重視するものにしました。
石田さんも相当毎日のように市町村とやりとりして、すごいスピードでプロジェクト動画のまとめページが立ちあがりました。
石田
そうですね。寄付の事例はその動画ページからの流入でもあったので、今後事例を増やしたいですね。
小坪
去年よりもすごくランディングコンテンツが有効になり、発信力が強まっています。
今年度は鹿目さんとの協働になりますが、ぜひ頑張りたいです。
鹿目
一番最初はプロジェクトの全容がつかめず、すごく大変そうな印象を覚えました。
着手してみた今は、大変そうであるのは変わりませんが、乗り越えていける予感を持っています。
小坪
47の各都道府県にそれぞれ企業版ふるさと納税の推進リーダーという方々がいらっしゃるんです。
その方々は、県下の市町村に企業版ふるさと納税をもっと活用してもらえるように啓発活動をするというミッションが与えられています。
その方々向けにカルティブ主催の勉強会を定期的に開催していて、奈良県には3回登壇してもらっているんです。
他の県庁さん向けに「県庁として市町村に積極的に働きかけている」すごい先進的で優良な事例として、紹介をお願いしています。
前回の勉強会は、年度の区切りだったので、実際に何をやってどういう結果になったか、良かった点と反省点などを鹿目さんにレポートしていただきました。
つい先週(2022年6月9日)のことです。
ありがとうございました。

組織と組織ではなく、人と人との関係。
だからこそ楽しく真剣に取り組める。

− カルティブについての印象を教えてください。

染川
我々公務員は、民間の視点というのがあまりよく分かっていない部分がございます。
小坪さんは民間での業務経験も豊富におありなので、企業目線でのアドバイスをご提供していただける点が一番ありがたいです。
企業が企業版ふるさと納税による寄附を検討するときに「どういう目線でプロジェクトを選んでいくのか」という我々行政職員の及ばない民間の視点というのを、企業版ふるさと納税を熟知しておられる小坪さんから教えていただけるというのは大変貴重な機会です。
大変参考になりますね。すごく頼りになります。
また、仕事でこれまで接してきた民間の方と比べてもかなりフレンドリーな方なので、気軽に質問ができる点も大変ありがたいですね。
小坪
「仕事」という感覚はある面で持たないようにしています。
「こういう人にこういう形で価値を提供したい」という1対1の関係で見ていて、だから「株式会社カルティブと奈良県庁」というよりは、「自分と染川さん」だったり、「自分と石田さん、鹿目さん」という感覚でやりとりをしています。
個人として求められていることにいかに応えていくかに集中するようにしていて、だからこそいろいろな意味で融通が効くというのがあります。
代表の池田に「オンオフをどう切り替えるか?」って聞いたことがあって「いつもオフです」って回答だったんです。自分もその感覚を大切にしているから楽しく仕事に取り組めています。
石田
小坪さんは人とのつながりを非常に大事にされていらっしゃるのを感じます。
他府県の情報に詳しく、いろいろな方をご紹介していただけるので非常にありがたいです。奈良県のPRに対して私たちと別の熱量を持って取り組んでいただけているところがうれしいです。
あと、小坪さんも徳永さんも、アイデアを形にするスピードが早いのでそういった能力にも助けられています。
小坪
県庁の皆様も対応が早いですよ。石田さんとのキャッチボールは本当にスムーズでこちらこそ助かりました。
また、染川さんは「部下に任せる」のが本当にお上手だなという印象です。
要所要所で入っていただきたいところでサポートをしてくださり、決断することはきっちり決めてくれ、任せたものは本当にしっかり任せて、応援してくれる。
染川さんの存在があるからこそ、石田さんの対応力がより発揮されていたように感じました。

奈良県の企業版ふるさと納税連絡協議会とそのアドバイザーの活動がたくさんの人に知られ、先進的な事例だという認知を獲得できるのは双方の共通のメリットになるんです。奈良県庁の価値が上がるように、各所に報告するんですけど、それはつまり、ありがたいことに僕もその先進的な事例に参画している人だと認識してもらうことに繋がるので、すごい連携しやすい。やりやすいし、やりがいがある。
鹿目さんは、とてもきっちりしています。処理の精度とスピードが速く、曖昧なことを全然言わない。
先日の登壇は原稿の全文を文字起こしされていてさすがだなと思いました。本当に聞きやすくて分かりやすかった。
あと、話し合いの中で「他の自治体のケースへの関心」が強く、奈良県のみならず全国的な横軸の視点を感じます。
鹿目
小坪さんとの付き合いはまだ日が浅いですが、それでも本当に企業さんの目線に造詣の深い方だと感じています。そして、意見交換のしやすさも感じています。本当に話しやすくありがたいです。
本当に今後も頼りにさせてください。

今年は勝負の年
心強いアドバイザーとしてどれだけの実績が作れるか

− 今後の意気込みを聞かせてください

小坪
アドバイザーとして関わらせてもらい「企業版ふるさと納税コンサルタント」を標榜している以上結果を出さない訳には行きません。
昨年度実行した施策のトライアンドエラーはノウハウとして溜まっているので、粛々とやれば結果は出ると信じています。
なので染川さん、鹿目さんよろしくお願いします。
鹿目
私の役割は石田から引き継いだ、協議会の運営をつつがなく行うのが第一であり、その上で寄附の実績を作るという目標が伴います。
小坪さんとの協働も引き続き継続していただけたらありがたいです。
染川
協議会の立ち上げから始まり、いろいろな事業をさせていただいていますが、会員の市町村からしたら、結局「寄附をどれだけ獲得できるか」が一番重要です。そのためにどれだけ我々が支援できるか。目標設定はなかなか高いですが、それを達成し、1団体でも多くの市町村に寄附を受けてもらうことができるよう支援したいです。
協議会の目的はそこに尽きますので。今年度は小坪さんのご協力をいただきながら、しっかり結果を出していきたいです。
奈良県が「先進的」と言われていても結果を出していなかったら何の意味もありません。
去年度は制度改正されてから間もない時期でしたが、現在はすでに市場が動き出しています。
全国的に主要な企業は制度を認知されている状態になってきていますので、今年が勝負の年と考えています。
石田
昨年が立ち上げの年度で、小坪さんと何度も「まずやってみましょう」とトライアンドエラーを繰り返してきました。
試行錯誤の結果、後継の鹿目は大変でしょうが、小坪さんという心強いアドバイザーがいらっしゃるので、小坪さんと連携して、しっかりと結果を出していただけたらと思います。